水曜日, 6月 01, 2016

社会科学研究における英語と母語(松本)

台湾での講演を無事終えて、日曜に帰国しました。
研究や教育に関わる内容で感じたことや得たことはもちろんたくさんあるのですが、それとは別に一つ、あらためて考えさせられたことに、とくに社会科学の研究を進めるうえでの母語の大切さ、ということがあります。

講演は、専門の通訳をつけていただき、中国語に翻訳してもらいました。
英語か日本語か選んでok、ということだったので、それはもちろん!日本語に。
講演の内容は、日本の保育を紹介する内容を付け加えた以外は、いつも日本での講演で話している内容とそう変えずに。
直前まで悩んだのですが、保育現場の事例やエピソードも、ほぼ、いつもどおり話してみることにしました。
いつもと違うのは、日本語のスライドを示しても仕方ないので、スライドは英語で作ったことです。
英語のスライドを見ながら日本語で話し、中国語の通訳を介して質疑応答するという、ハイブリッド!?伝わればなんでもこい!?状態。はじめににわか中国語で挨拶して、本番に臨みました。

ありがたいことに、こちらの意図した内容は、おおむね伝えることができたようです。
一方で、日本語が得意な一人の学生のおかげで、事例や質疑応答の内容のいくつかが、違うかたちで伝わっていたことを知ることができました。
たとえば「園でカエルを飼う」が、カエルの絵を描く、になっていたり、「鼻と口の間に力を入れてネンドを切る」が、歯磨きをする、というような表現になっていたり⋯⋯。ああ、痛恨⋯⋯。
でも、どちらも保育現場に馴染みがなければ(特に後者は保育現場に馴染みがあっても)、通訳しにくいのは無理もないと思います。
背景となる文化が異なれば、事例に共感することは難しいかも、という迷いもあり、事例の内容を事前に通訳の方に送れなかったので、致し方ないかと。通訳の方は、とてもよくやっていただいたと思います。そして同時に、もう一人日本語のわかる子がいたことで、誤訳がわかり本当によかったと思いました。

講演前は、プロの通訳を介して、ゆっくり話せば伝わるのではないか、と、特に意識することなしに思っていたのですが、実はそれはそう簡単ではないことを自覚しました。また同時に、翻訳を介して我々に伝わっていることも、それなりの程度のズレを含んでいることを認識する必要があると改めて感じました。テレビでよく見る、俳優やスポーツ選手・監督、政治家などのインタビューもしかりです。

台湾で出会った大学生の語学力は、おおむね私の周りの大学生たちと近いです。
英語については、帰国子女でだいぶ流暢な子も若干いますが(彼女にはかなり助けてもらいました)、シャイで全く話そうとしない子、いつぞやの私のように、チャレンジするものの力がついていかずもどかしそうな子……と様々です。
ちなみに教員の英会話力は、私よりずっと高い方が多い気がしました。(そりゃもちろん!) アメリカの大学院の学位をもっている方も多いみたいです。

というわけで講演以外の場面では、英語がわかる方にはいつものインチキ英語で直接、もしくは日本語が得意な彼女を介したり。相手が複数のときは、おおむねインチキ英語で。中国語のみの相手には、日本語や英語を介してやりとりしました。挨拶と自己紹介だけは、何とか中国語で。

そうやって改めて感じたのは、やっぱり母語はかけがえのないものだし、相手のそれがわかると、見えてくる世界がきっと変わってくるだろうなということです。
たとえば英語圏以外であっても、英語を介することで、ある程度はその国や地域の状況を把握できるでしょう。
いっぽうで、それらの国や地域において、英語が相当程度使いこなせる人たちは、その国での経験や階層という点で、限られ偏った存在であるということも事実かもしれません。
英語を知っている=その国や地域のことを(言葉も含め)よく知っている、とは限らないということなのだと思います。

照れもあって、直接こちらに話しかけるのを躊躇してはにかむ学生達。
夜市の片隅で、うちわ片手に香港映画さながらに佇んでいるバアさん。
こちらを見上げ、笑顔に笑顔で応えてくれる子どもたち……。

母語が理解できれば、きっとこの人たちの思いにももう一歩迫っていける。
その時に描ける世界は、また異なるものになるだろうと強く感じました。
自然科学研究のように、数式という共通言語を持たないからこそ、できるだけ多くの人に迫れる母語を直接汲み取り、そこに向けて発信できるかが、社会科学においては研究や実践の肝になっていくのだと思います。

なんだか長くなりました。
施設訪問や講演のことは、またいずれ、もう少し体の疲れが抜けた頃にします。
 

素敵な賞状?をいただきました。
漢字文化圏&繁体字なので、ある程度意味が分かる気がするのが嬉しいです!


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