水曜日, 6月 17, 2015

子どもたちと私たちの「あさって」のために(松本)

去る6月6-7日、『第15回高知の保育を考えるつどい』に招いていただき、高知市へと出かけてきました。
私が担当させていただいたのは、6月6日の記念講演と、7日の分科会の協力者です。

6日の講演タイトルは『乳幼児期の発達と保育―子どもたちと私たちの“あさって”のために』

今回、キーワードとしてお借りしたのは、哲学者の鷲田清一先生が、ご講演『あさっての美術館』(福原義春(編)『100人で語る美術館の未来』慶應義塾大学出版会に所収)の中で示されている、「明日」「あさって」という視点です。

   “明日”…………どんな状況でも、必ず訪れる
   “あさって”……まだよく見えないけれど、きっと訪れる

比較的よく見える、約束されるものが「明日」だとすれば、訪れることは確かだけれども、そのかたちは約束できない「あさって」
「明日」への約束(エビデンス)があふれがちな時代の中で、保育や教育の向かう先はどこにあるか、そもそも公教育や公的保育は誰のための営みで、それをふまえたときに「明日」の実践をどう積み上げていくことができるか。
保育実践の事例をひきつつ、発達心理学の視点と絡めて、「2つの時間」を考えることと、魅力的な保育づくりと子どもたちの豊かな育ちとのつながりについて、話をさせていただきました。

7日の担当は、3歳児保育の分科会。
保育の仕事で高知に伺うのは4回目で、そのたびに魅力的な話を聞かせてもらえます。
今回も、3本の素敵な保育実践報告をもとに、議論を深めることができました。

絵本『どうぞのいす』(香山美子/ひさかたチャイルド)のストーリーをご存じでしょうか。
表紙にも登場するウサギさんは、はじめにいすを置いた後、二度と(!)本の中には帰ってきません。
そんな前のめりなストーリーが大好きな3歳児の世界は、「未来志向」と名付けることができます。

未来志向の3歳児にとって大事なのは、「これまで」よりも、「今」とこれから。
3歳児独特のそんな切り替えの早さに、ときに大人はついていけないこともあるけれど、だからこそことばでの説明や納得以上に、保育づくりのなかで目の前の具体物の充実や、雰囲気づくりが鍵になるはず。
まもなく始まるプールの季節に、「かいぞくポケットの浮き袋」や「サメ子ちゃん」等々が登場するゆえんです。

そんな3歳児クラスをはじめて担任した、若手保育者のT先生。
朝、いつも後ろ向きな気持ちで登所してくるPちゃんにとって、楽しみになる経験って何だろう、と考えた末に取り組んだのは、子どもたちが大好きになった『おたまじゃくしの101ちゃん』(加古里子/偕成社)のストーリーに乗っかって、T先生自らタイツを身にまとったザリガニ親分に扮しての、子どもたちとの毎朝の追いかけっこでした。

「オレがまもっちゃる」とPちゃんに話しかける子たちがいたり、ときにザリガニの仲間として追いかける側にまわる子たちがいたり、ときにはなぜだかザリガニと一緒に踊ったり……。
子どもたちの声に耳を傾けつつ、何より本気で子どもたちと一緒に楽しむT先生と、そんな取り組みを温かく支える保育所の職員集団のサポートの中で、Pちゃんは徐々に、友だちと楽しく手をつなぎつつ、喜んで登所するようになっていきます。

子ども集団での保育だからこそ味わえる、「一緒」の楽しさをどう引き出し、支えるか。
「子どもと一緒に楽しめる大人」がそばにいるからこそ成り立つこの時期の保育の魅力を、今回の分科会を通じて、改めて教えていただいたように思います。

お世話になりました高知のみなさん、ありがとうございました。
また、戻ってきたいと思います!


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